コロナ禍で「レシートキャンペーン」急拡大
DXを目指す流通・小売がまず始めるべき施策はこれだ

コロナ禍による消費者行動の変化によって、小売業界は大きな転換を迫られている。店舗への集客や販促が今まで以上に重要になる一方、物理的な接触を伴うはがきやシールを使った販促キャンペーンの実施が難しい状況になりつつある。また、消費行動のオンラインシフトが加速し、店舗とECとの連携によってさらなる購買を促進する仕掛けも求められている。とはいえコロナ禍における、いわば“逆風”の中にあって、大掛かりなDXへの投資をためらう企業は少なくないだろう。

ウィナス取締役 金子智仁氏の写真
ウィナス取締役の金子智仁氏

そこで注目されているのが、レシートを活用した非接触型の販促キャンペーンだ。レシート画像をスマホで送信するだけでプレゼントやクーポンが当たるキャンペーンシステムが、ドラッグストアなどの小売店舗に導入され始めている。

その中でも、レシート特化型AI-OCR技術によって、低コストかつ手軽なデジタル販促施策を可能にしたのが「itsmon(いつもん)レシート」だ。同サービスを提供するウィナスの金子智仁氏に、コロナ禍で小売業界が抱える販促の課題とその解決法を聞いた。

ツルハドラッグやららぽーとでも導入のサービス

ウィナスはITを活用したソリューション事業や、自社メディアの運営などを展開するベンチャー企業だ。itsmonレシートは小売業やメーカーの課題解決を軸にしたパッケージサービスとして、2018年に誕生した。

itsmonレシートは、購入者がレシートで簡単に応募できるキャンペーンシステム。店舗のキャンペーンページにアクセスし、スマホのカメラでレシートを撮影。フォームから写真をアップロードすると、システムがOCR処理でレシートの文字を読み取り、キャンペーンの条件と照合する。条件を達成していれば、抽選でプレゼントが当たったり、デジタルクーポンがその場でもらえたりできるという仕組みだ。

スマホのカメラでレシートを撮影する様子
スマホのカメラでレシートを撮影し、キャンペーンページにアップロードするだけで応募できる手軽な仕組み

もともとは、BtoC向けのポイントサイトである「itsmon」のサービスの一部だった。アンケート回答などでポイントがたまるいわば「ポイ活サイト」で、その中にレシート画像を送信するとポイントがたまり、デジタルクーポンに交換できる機能を備えている。それをとある中堅スーパーに提案したところ、巻き込む部門が増えてしまい、「もっとシンプル化できないか」と考えたのがitsmonレシートの始まりだったという。

「先方のニーズとしては購買証明を使ったキャンペーンでした。ならばその部分だけをサービスから切り出してシンプル化すれば、パッケージで販売しやすくなるのではと考えたのです」(金子氏)

シンプルなサービスは理解されやすく、説明しやすいので売りやすい。レシート応募サービスだけを切り離して販売を開始した結果、導入が広がっていった。サービス開始時は年間100社未満の導入数だったが、現在は年300社以上のペースで増え、累計約800社が利用する一大サービスとなった。「年300%成長というすごい伸び率になっています」と金子氏も驚く。ドラッグストアの「ツルハドラッグ」や商業施設の「ららぽーと」など、大手企業からの引き合いも多い。

新型コロナウイルス感染症の拡大も追い風となった。コロナ禍以前は、応募シールなどをはがきや台紙に貼って応募するキャンペーン方式が一般的だった。しかし、感染対策として非対面・非接触が推奨されるようになり、対面型の販促が激減。その一方で、非接触型の販促を実施したいニーズが急増し、デジタル上で完結するitsmonレシートが注目されるようになった。

「実はコロナ禍になり問い合わせが急増しました。外出自粛が広がった2020年3月にはパタッと問い合わせがなくなりましたが、5月には回復。その後はコンスタントにお問い合わせをいただいています」(金子氏)

キャンペーンをデジタルシフトすれば、コスト面でもメリットは大きい。従来の応募方式では、キャンペーン事務局を設けてはがきの集計や転記が必要だったため、時間的・人的コストがかかっていた。さらに、データを解析するノウハウがないため、せっかく集めたデータを全く活用できていない店舗もあった。「規模が小さい小売店の場合、アウトソースできないため現場の負担が大きいという課題が根強くありました」と金子氏は実情を明かす。

「消費者を店舗誘導したいが、コストはかけられないし現場の負担も増やしたくない」――そういった小売業のフラストレーションを解消するのがitsmonレシートだった。

複雑な条件での判定を可能にしたAI-OCR

多数の流通小売業から支持されている理由として、レシート特化型のAI-OCRによる高精度な文字認識機能がある。

itsmonレシートはリリース当初、従来のOCRで処理していたため、レシートに記載されている商品名や店舗名を読み取る程度だった。レシートの細かい情報は分解できず、例えば読み取られた数字が商品の単価なのか、数量なのかまでは判別できなかった。

しかし、AIの深層学習を利用したAI-OCRでは、購入日時・購入店舗・購入商品・購入点数・商品の購入金額・合計金額・決済手段まで読み取れるようになり、意味を持ったデータとして蓄積することが可能になった。さらに、従来のOCRでは対応できなかった、それぞれの情報を組み合わせた複雑な条件でのリアルタイム判定を実現した。

レシートの構造を高精度に分解する様子
AI-OCR技術によって、レシートの構造を高精度に分解。詳細な情報を自動的に判別するため、
現場への負荷がかからないキャンペーンを展開できる

メーカーが費用を負担して店舗でプロモーションする場合、自分たちの商品を購入しているかどうかの判定が重要だ。今まではシリアルコードや応募シールなどで購買証明をしていたが、そのためには製造ラインを別にする必要がありコストがかかっていた。

しかし、AI-OCRであれば、他メーカーの商品を一緒に買っていても、自社商品の合計金額だけを抽出し判定できる。自社商品だけを絡めた複雑な条件でも自動判定できるようになったことで、タイアップが急増。メーカーとタイアップしやすいシステムであれば、小売からの引き合いが増えるのは自然な流れといえる。

「AI-OCRを搭載した2020年5月は新型コロナ拡大の真っ最中。AI-OCRのリリースは1つの賭けでしたが、時代の流れにピンポイントにはまり、注目していただけたのかなと思います。小売とメーカーによる共同タイアップの割合は、それまではキャンペーン全体の2割程度でしたが、直近は6割にまで増加しています。特に、ドラッグストアで棚を確保したい食品・飲料・日用雑貨メーカーのニーズにマッチしたようです」(金子氏)

ツルハドラッグでは、itsmonレシートを販促プラットフォームとして活用。予算を出してキャンペーンを実施したいメーカーを募ったところ、多数の企業から提案が入ったという。

「競合メーカーが同じプラットフォームでキャンペーンをすることは普通はありえません。しかし、ビール大手4社全てが参加した施策では、1カ月で数十万件の応募があるほどの巨大なキャンペーンが展開できました。AI-OCRの開発によって、小売側がメーカーを横断したキャンペーンを提案し展開するスキームが出来上がったのです」(金子氏)

DXの第一歩はコンパクトに始めてみることから

キャンペーンの展開だけでなく、キャンペーンによって集めた購買データの活用も重要だ。例えば、レジのPOSデータと連携して通常購買時のデータが取れれば、キャンペーン時との違いを可視化し、購買行動を比較できるようになる。集めたデータを分析すれば、より効果的なプロモーションの実施にもつながる。

「『このクラスタはキャンペーンに反応がいい』『反応は薄いがブランドロイヤルティーは高い』などがデータから見えてくれば、最適なプロモーションを実施できるようになります」(金子氏)

itsmonレシートではデータ集計だけでなく、レポーティングもセットで提供している。データを次回の販促に利用したり、複数回のキャンペーンで連続性のあるデータを取得したりと活用方法はさまざまだ。

「近年のデジタル広告は、Cookie規制などの影響でターゲティング広告がしづらくなっています。そのため、今後デジタル広告はマス広告に近い存在になってくるでしょう。精度の高さでいえば、実店舗の購買データに軍配が上がります」(金子氏)

「ただ蓄積している購買データをうまく活用できるようになれば、宝の山になる」と金子氏は商機を見る。しかし、これまで感覚値でやってきた企業に対して、始めから大規模なデータマーケティングに取り組むのはハードルが高い。だからこそ、まずは小規模な期間限定のキャンペーンから始めて、レポーティングによってデータを可視化することが小売DXへの第一歩となる。

レシートを発行していない店舗はほぼない。すでにあるものを活用するのであれば、導入のハードルは低いだろう。また、1日3000円からとリーズナブルなコストで導入でき、キャンペーンを開催している期間中だけ利用料がかかる料金設計となっている。また、キャンペーンの企画段階から事務局代行、データ解析までトータルでサポートしている。

「将来的にDX化が進めば、ECサイトと連携してデータ解析するなど、データドリブンマーケティングにも活用できます。そのための土台作りとなるのが、itsmonレシートです。コロナ禍では小売業が苦境にあるように捉えられますが、環境の大きな変化は勝者になる大きなチャンスでもあります。小売業界において店舗の価値が見直されている今、DXへの一歩が踏み出せない企業の背中を押すサポートをしていきたいと思います」(金子氏)

転載元: ITmediaビジネスオンライン

ITmediaビジネスオンライン 2022年2月15日掲載記事より転載
本記事はITmediaビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています

その他のコラム

その他のコラム